みなさんは正しい油絵の
“モリ方”を知っていますか?
ゴッホみたいな塗り方を
イメージしていたら
それは黄色信号です!
今回は材料学的に“正しい”
絵の具の盛り上げ方について
解説していきます。
真似するだけでリアルに絵を描けて
しまう技法なので、時間はかかりますが
皆さんも是非実践してみてくださいね。
今回は油絵の具で犬を描く手順を
動画で解説していきます。
動画で使った解説スライドや解説文も
載せておくので、動画と併せて
ご活用ください。
目次
リアルな犬の描き方:下描き編
さて、今回も下絵を転写していきます。
今回も絵のサイズがA4よりも大きいので、
2分割した下絵を用意しました。
今回はF3号サイズのキャンバスに
描いて行きます。
周囲の余白の部分をカットしていきます。
このようにつなげて使っていきます。
今回も下絵の裏を鉛筆で
真っ黒に塗っていきます。
下絵の線がある部分だけ
塗れれば大丈夫です。
手を動かす向きを変えて
何度か塗り重ねましょう。
下絵の裏を塗り終わったら画面に
マスキングテープで固定し、
線の上をボールペンで
なぞっていきましょう。
途中でパラパラとめくって線が
転写されているか確認しながら
進めましょう。
全ての線をなぞるとこのように
下絵を転写することが出来ます。
リアルな犬の描き方:明暗編
お次は褐色系絵の具で下塗りをしていきます。
今回はゴールデンレトリバーの絵なので、
イエローオーカー系の地塗りをしていきます。
この地塗り作業をインプリマトゥーラ
といいますが
この地塗りをやっておくと
鉛筆の粉が流れるのを防ぎ
また、中間のやや鮮やかな状態から
描き進めることができます。
今回は時間短縮のために
アクリル絵の具を使って
下塗りしています.
さてここからは油絵具
にはいっていきます。
初めはテレピンなどの揮発性の油が
多く混ざった溶き油を使っていきます。
制作の序盤は明るさの幅を増やして
いくことが重要なので
揮発油の多く混ざった艶のない油で
明るさをシビアに見ていきましょう。
この溶き油で地塗りの色よりも
少しだけ暗い色を作って塗っていきます。
基本的に油絵はこのように地塗りよりも
暗いゾーンは半透明な絵の具を
塗り重ねて徐々に暗くしていきます。
カゲの形や明暗の境界線の位置を
しっかり意識して、塗り重ねて
いきましょう。
お次は地塗りよりも少し明るい色を
作って塗っていきます。
このようにインプリマトゥーラを
使った技法では、1日のうちに
暗いゾーンと明るいゾーンを
両方塗り重ねることができます。
地塗りよりも明るい色を塗る時は
このように不透明でこってりした
絵の具を作って
下地を隠蔽するように
塗っていきます。
光の形や明暗の境界線の位置を
しっかり意識して、
塗り重ねていきましょう。
キャンバスの凹凸を埋めるように
しっかり塗りこんでいきましょう。
1日目の作業ではここまで進みました。
下絵をF3号のキャンバスに転写し
イエローオーカーのアクリル絵の具で
下塗りをして
暗い部分を半透明な絵の具で
明るい部分を不透明な絵の具で
塗りました。
制作の序盤はテレピンなどの揮発性の油を
多めに溶き油に混ぜてこのように
艶のない状態で描き進めましょう。
さて今回も昨日作った色幅を生かして
さらに明暗の色幅を広げていきます。
今塗ってある最も暗い色よりも
少しだけ暗い色を作って塗っていきます。
基本的に油絵はこのように地塗りよりも
暗いゾーンは半透明な絵の具を
塗り重ねて徐々に暗くしていきます。
カゲの形や明暗の境界線の位置を
しっかり意識して、塗り重ねて
いきましょう。
お次は今塗ってある最も明るい色
よりも少し明るい色を作って
塗っていきます。
地塗りよりも明るい色を
塗る時はこのように不透明で
こってりした絵の具を作って
下地を隠蔽するように
塗っていきます。
光の形や明暗の境界線の位置を
しっかり意識して塗り重ねて
いきましょう。
キャンバスの凹凸を埋めるように
しっかり塗りこんでいきましょう。
また、今回紹介するレンブラント
のような描き方では
明るい部分は粗めの筆のタッチで
塗っていきます。
ただ荒々しく塗るのではなく、
モチーフの質感を感じるような
筆さばきをイメージして
塗っていきましょう。
今回で言えば、光を浴びて
光っているゴールデンレトリバーの
金色の毛並みを意識して
筆を動かしていきましょう。
枯れ枝のシャープな直線は
ペインティングナイフの側面に
絵の具を付けて
画面を切るように塗ることで
再現することが出来ます。
2日目の作業ではここまで進みました。
1日目と比べるとこんな感じです。
明るさの段階が増えたことで
光の方向や犬の姿が少しづつ
浮かび上がってきましたね。
明るさの段階を着実に増やしていくことで
1日目に比べると状況がわかるように
なってきました。
この調子で進んでいきましょう。
さて今回も昨日作った色幅を生かして
さらに明暗の色幅を広げていきます。
今塗ってある最も暗い色よりも
少しだけ暗い色を作って塗っていきます。
基本的に油絵はこのように地塗りよりも
暗いゾーンは半透明な絵の具を塗り重ねて
徐々に暗くしていきます。
カゲの形や明暗の境界線の位置を
しっかり意識して、塗り重ねて
いきましょう。
さて明暗のコントラストがついてきました。
このくらいの段階になったら
画面の鮮やかさを
少し上げていきましょう。
画面を鮮やかにする時のポイントは
最も明るいゾーンを避ける です。
多くの場合最も明るいゾーンは
白っぽいので彩度が低いのです。
このように中間の明るさのゾーンを中心に
やや鮮やかな半透明の絵の具を
塗り重ねていきます。
3日目の作業ではここまで進みました。
2日目と比べるとこんな感じです。
明るさの段階がさらに増え中間の明るさ
のゾーンがやや鮮やかになりました。
この調子で明るさの段階を増やしながら
進んでいきましょう。
さて今回も昨日作った色幅を生かして
さらに明暗の色幅を広げていきます。
今塗ってある最も暗い色よりも
少しだけ暗い色を作って
塗っていきます。
基本的に油絵はこのように地塗りよりも
暗いゾーンは半透明な絵の具を塗り重ねて
徐々に暗くしていきます。
カゲの形や明暗の境界線の位置をしっかり
意識して、塗り重ねていきましょう。
さて今回はやや特殊な作業をやります。
ここまでは基本的に明るい部分は
不透明な絵の具でこってり塗る
暗い部分は透明な絵の具で
下地を透かしてサラッと塗る
といった操作で画面の色幅を
広げていきました。
これが古典技法の基本なのですが
今回のモチーフは主役の犬の顔が
カゲの中にあります。
犬の顔の形をしっかり描かないと
弱い絵になってしまうのです。
しっかり描くのには不透明な絵の具で
形を塗り分ける必要があります。
そこで、今回は一度犬の顔の部分を
不透明な絵の具で塗っていきます。
今の状態だと画面が鮮やか過ぎて
形を見づらいので
ややグレイッシュな色を不透明な絵の具で
しっかり作り
犬の顔の部分に塗っていきます。
このときもやはり、光の形やカゲの形、
明暗の境界線の位置をしっかり意識して
塗っていきます。
このように基本的には形を描くときは
やや鈍いグレイッシュな絵の具で
描いて行くのがポイントです。
鈍くなりすぎたら、乾燥を待って、
透明で鮮やかな絵の具を塗り重ねれば
良いでしょう。
お次は背景部分の中の暗い部分に
今塗ってある色よりも少しだけ
暗い色を作って塗っていきます。
基本的に油絵はこのように地塗りよりも
暗いゾーンは半透明な絵の具を塗り重ねて
徐々に暗くしていきます。
背景の部分はピンボケしていますし、
形を厳密に合わせる必要はありません。
それらしいピンボケの表情になるように
暗い半透明な絵の具を塗り重ねて
いきましょう。
犬の顔の部分を中心し不自然な部分や、
塗りムラの目立つ部分を
修正していきます。
犬の顔の大まかな印象を、やや鈍い状態で
とらえきるイメージで描いてみましょう。
4日目の作業ではここまで進みました。
3日目と比べるとこんな感じです。
主役の犬の部分全体に不透明な絵の具が
のったことで犬の存在感が増しましたね。
主役の犬の部分は光の形、
カゲの形を強く意識して
やや鈍目の不透明な絵の具でしっかり
形を刻むように描きました。
これとは逆に背景のピンボケ部分は
厳密に形を追うのではなく、
それらしい形を再現するに
とどまっています。
主役の部分も背景の部分も関係なく
画面全体をきっちり再現してしまうと
写真のようにどこもかしこも同じ緊張感の
絵になってしまいます。
なので、主役の犬の部分と
背景部分の描き方は
変えてあるのです。
さて少しづつ絵の具が積み重なって
きました。ここからは制作も
後半に入っていきます。
制作も進んできたので今回は溶き油に
リンシードオイルも混ぜていきます。
リンシードオイルのような乾性油を
溶き油に混ぜると油絵独特の透明感や
上品な艶のある画面を作ることが出来ます。
リンシードオイルは乾燥が遅いので
溶き油に加えるときには一緒に
樹脂も混ぜましょう。
ダンマル樹脂という比較的乾燥が速く
変色も少ない樹脂を加えています。
さて今回も昨日作った色幅を生かして
さらに明暗の色幅を広げていきます。
前回不透明な絵の具で作ったベースの上に
半透明なこげ茶色を塗り重ねて
暗く鮮やかに仕上げていきます。
基本的に油絵はこのように地塗りよりも
暗いゾーンは半透明な絵の具を塗り重ねて
徐々に暗くしていきます。
カゲの形や明暗の境界線の位置を
しっかり意識して、塗り重ねて
いきましょう。
背景のピンボケ部分は形の厳密さよりも、
自然に見えるかを意識してそれらしい現象
を作っていきましょう。
5日目の作業ではここまで進みました。
4日目と比べるとこんな感じです。
4日目に不透明な絵の具で作ったベースの上に
暗く鮮やかなこげ茶色を塗り重ねました。
このように制作の後半は序盤に
作ったベースの上に絵の具を塗り重ね
明度、彩度、色味を
微調整していきます。
この調子で進んでいきましょう。
リアルな犬の描き方:グレーズ編
さてここまで進んできて明るさの段階
が増え、かなり光を感じる状態に
なってきました。
今回は画面を鮮やかにしていきましょう。
画面を鮮やかにする時のポイントは
最も明るい部分を避けて塗ることです。
最も明るい部分はほぼ白なので、
彩度が低いのです。
なので、このように明暗の境界線付近の
中間の明るさのゾーンの彩度を
上げていきましょう。
半透明な鮮やかなオレンジを
塗り重ねていきましょう。
お次はモチーフについている色、
固有色を再現していきます。
今回は夕日のような黄金色の光を設定し、
金色の毛を持つゴールデンレトリバー
を描きました。
なので基本的には光の色味を再現する
だけでゴールデンレトリバーも
描けるのですが
犬の舌の部分や背景の草の部分には
ほんのり色がついていますね。
舌の部分には半透明な赤を草の部分には
半透明な黄緑色を塗り重ねていきます。
6日目の作業ではここまで進みました。
5日目と比べるとこんな感じです。
5日目の作業までで明るさの段階は
かなり増えてきていました。
そこで今回は鮮やかさを
追加する作業をやりました。
今回のような劇的な光の設定の場合
明暗の境界線付近に最も鮮やかな色が出ます。
なので今回は明暗の境界線の付近を中心に
鮮やかな半透明な絵の具を塗り重ねました。
だんだん完成度が上がってきましたね。
この調子で進んでいきましょう。
今回も前回に引き続き画面を
鮮やかにしていきましょう。
画面を鮮やかにする時のポイントは
最も明るい部分を避けて塗ることです。
前回はやや黄色っぽいオレンジ
を塗り重ねました。
今回はもう少し赤っぽいオレンジ
を塗り重ねていきます。
このように半透明な色を塗り重ねる作業を
2回に分けることで
鮮やかなゾーンの中でも
やや鮮やかなゾーン
かなり鮮やかなゾーンを
作り分けることが出来ます。
こうすることでさらに、画面の明るさ、
鮮やかさに段階ができ、自然な仕上がり
になります。
お次は画面の暗い部分に半透明な
こげ茶色を塗り重ねていきます。
1日のうちに複数の色を塗り重ねるときは、
前に塗った色が乾いているかを
確認して塗り重ねましょう。
そうでないと、下に塗った絵の具層が解けて
今塗っている色と混ざり合い、マーブル模様
のようになってきたなくなってしまいます。
今回は最後に最も明るいゾーンにも
うっすら半透明な黄色を塗り重ねます。
画面全体がかなり鮮やかになってきたので
最も明るいゾーンの彩度も若干
上げたほうが自然になります。
7日目の作業ではここまで進みました。
6日目と比べるとこんな感じです。
半透明で鮮やかな絵の具を塗り重ねることで
画面の明るさにさらに幅が出ました。
そして画面が鮮やかになりましたね。
このように様々な色の半透明な
絵の具を塗り重ねるときも
常に最も明るいゾーンが鮮やか過ぎないか?
をチェックしましょう。
明るさと鮮やかにバリエーションが
出てきたので、細部をほぼ描いていない
にもかかわらず、
かなり自然な印象が出てきました。
ここで終わりでも良いのですが、
最終日にはこの技法の真骨頂であり、
ハイライトの盛り上げ技法、
インパストをやっていきます。
リアルな犬の描き方:仕上げ編
さてここまでの作業で色幅を作ってきて
夕日の光の自然な印象は出てきました。
強烈な光を描くときに注意したいことが、
モチーフの形態感が弱くなりやすい
ということです。
今回も犬の顔の部分の形態感が
今のままでは弱いので
犬の顔の陰の形を観察し
半透明なこげ茶色を塗り重ね
デッサン的に形を整えていきます。
犬の顔の大部分がカゲの中にあるので
そこまで目立ちませんが
カゲの中にも弱い明暗の境界線があります。
カゲの中の形をしっかり観察し、
形の変わり目がどこにあるのかを
意識して形態感を出していきましょう。
花や風景のようなモチーフの場合、
形態感や立体のボリューム感は
さほど気になりませんが
動物や人間を描くときには重要になるので、
常に形の変わり目がどこにあるのかを
意識する必要があります。
最後に今回の技法の最大の見せ場である
インパスト技法を実践します。
インパスト技法とは、画面の中で
最も明るいゾーンに固練りの絵の具を
ドカンと塗る技法です。
17世紀オランダの画家で最も有名な画家
の一人がレンブラントですが
レンブラントはこのインパスト技法
の名手でした。
ハイライト部分の盛り上げた絵の具が、
本当に光そのものに見え、
ものすごい迫力があるのです。
よく画面全体をあっちもこっちも
盛り上げて描くひとがいますが、
あれは材料学的には正しくありません。
ゴッホの描き方は材料学的には
NGな描き方なのです。
インパストの技法をやる時は
アルミナホワイトという絵の具を
硬くする粉を混ぜると良いでしょう。
このアルミナホワイトは体質顔料と呼ばれ
混ぜても絵の具を変色させず、
絵の具の油分を吸い取ることで
固練りにするのです。
油絵具にとって油は接着剤なので、
混ぜ過ぎはNGです。
インパスト技法で固練りの絵の具を塗り、
画面に盛り上げるときは
豚毛のような剛毛の筆がオススメです。
ゴールデンレトリバーの
金色の毛並みの光に見えるように
筆の荒々しいタッチを残して
固練りの絵の具を塗っていきましょう。
この技法で筆のタッチを残すときは
いつ終わらせるのかが重要です。
何度も同じ場所をグリグリ塗っていると
かすれた表情が塗りつぶされて、
ただの色面になってしまいます。
荒い筆のタッチのカスレた表情を
ウマく残しながら塗っていきましょう。
最終的にこのような仕上がりになりました。
7日目と比べるとこんな感じです。
画面の最も暗いゾーンと最も明るい
ゾーンに手を加え完成しました。
この技法の最大の特徴は絵の具の
付き方のバリエーションです。
暗いゾーンに半透明でサラサラな
絵の具を下地を生かして塗る塗り方
明るいゾーンにフラットで
不透明な絵の具を塗りこむ塗り方
ハイライトの部分に固練りの絵の具を
盛り上げて塗るに塗り方
など油絵特有の素材感を生かした
描き方となっています。
油絵の醍醐味を味わえる技法なので
是非みなさんも実践してみてくださいね。