風景画を水彩で描く画家さんは多いですね。
水彩の風景画は趣味でやっている人でも
非常にレベルが高い方も多く
水彩でウマい風景画を描くことには
ちょっとした憧れを持っている方も
多いかもしれません。
今回は水彩で風景画を描くための準備や
具体的な手順などを徹底解説していきます。
動画での解説もしていますが、動画で
使った解説スライドや解説文も
載せておくので、動画と併せてご活用ください。
目次
風景画を水彩で描く準備
風景画を水彩で描く準備方法を
始めに解説していきます。
水彩画のオススメ画材
透明水彩絵の具
風景画を描く際、オススメなのが
透明水彩絵の具です。
透明水彩絵の具は名前の通り、
非常に透明感のある絵の具なのですが
実際に光を透過しているわけ
ではないのです。
大量の水を混ぜて使うことで、疑似的に
透明な塗膜に見えかけているだけなのです。
大量の水を 混ぜて使ってもしっかり
紙に絵の具が張り付いているのは、
高濃度のアラビアゴムのおかげなのです。
ちなみに油絵具は実際に光を透過しています。
これは油絵具の媒材である乾性油が
高い屈折率を持つおかげなのです
さて、今回はこのチューブ入りの透明水彩絵の具
を使うわけですが、このタイプには
様々なメリットがあります。
チューブから出した状態の硬くて
濃い状態の絵の具を使えるのです。
キャラメル状に固められたパンタイプの
水彩絵の具ではこの使い方はできません。
硬い状態の絵の具があれば、ドライブラシのような
カスレを活かしたタッチで描くこともできます。
もちろん、透明水彩絵の具なので、水で薄めた
絵の具を透明なセロファンを重ねるように
使うのが王道です。
軟筆の筆
水彩画で最もよく使う筆は
このような柔らかい毛の筆です。
水彩画では一度塗った色の上に
重ね塗りをしていくわけですが、
硬い毛の筆で重ね塗りをやると
下に塗った絵具が剥げて
しまったりするのです。
また、水彩画にはウォッシュという
絵の具を洗い流すような
技法もあるわけですが
硬い毛の筆でこれをやると紙が
どんどんボソボソになってしまいます。
水彩画では基本的には柔らかい毛の筆
を使うと良いでしょう。
水彩画の筆は本当に高価なものから
安価なものまでありますが、
コチラでは誰でも気軽に買える
価格帯の筆で良いでしょう。
剛毛の筆
水彩画は基本的に軟毛の筆で
描いていくわけですが、
カスレを活かしたようなタッチで
描くときには剛毛の筆も役に立ちます。
これは油絵用の豚毛の筆ですが、
このような使い古された、やや毛先の
広がった硬い筆を活かしたタッチも
味になるでしょう。
画用紙
画材屋さんで売っている画用紙や
スケッチブックの紙でも、
十分に水彩画を楽しむことが出来ます。
まずは安価な画用紙で水彩絵の具に
慣れていくと良いでしょう。
ホワイトワトソン紙
コチラは若干エンボスの
入った水彩用の紙です。
画用紙とは違い、水彩画のための紙
なのでやはり、カスレや滲みといった
水彩らしいタッチを
使いやすい紙になっています。
こちらの紙はさほど高くないので、気軽に
試せる水彩紙となっています。
アルシュ紙
コチラは水彩画用の高い
水彩紙の代表例です。
非常に丈夫な紙で、何度洗っても
全くボソボソにならないです。
カスレを活かしたような
水彩画を描く場合や
何度も絵の具のやりとりをしたい
場合にはオススメです。
ホワイトワトソン紙や画用紙での制作に
慣れてきたら挑戦してみましょう。
バケツ
バケツは筆が固まってしまわないように
筆を漬けておくために使います。
しかし、柔らかい毛の筆や細い筆を
使うときは注意が必要です。
バケツの底に毛先が接触し、筆の重みで
毛先が曲がってしまうのです。
ティッシュ
私はバケツに筆を漬けておいて
毛先が曲がるのが心配なので
面倒ではありますが
1つの筆を使い終わったら
バケツで筆を洗い、ティッシュで
拭くことにしています。
紙パレット
お次は紙パレットです。
紙パレットはこのように
絵の具を出して使う
パレットなのですが
使い終わった後、1枚はがして
捨てることで常にまっさらな状態で
使うことが出来ます。
プラスチックのパレットに
こびりついたアクリル絵の具や
油絵具をはがして洗い流すのは
かなり大変な作業なので
アクリル画を描くときは
紙パレットが便利です。
水差し
水差しも持っていると便利でしょう。
水差しがパレットの横に置いてあると
このように常にきれいな水を必要な分だけ
用意できます。
筆で水をパレットに移して混ぜると
水が多すぎて絵の具が
シャバシャバになってしまった
なんてことも多いですが、水差しで
少しづつ水を追加していけば、
最適な硬さの絵の具を作ることが出来ます。
水張りのやり方
風景画を水彩で描く時におすすめなのが
水張りという技法で
画面を用意することです。
水彩画は基本的に水を混ぜた絵の具を
紙に塗っていく技法なので、
当たり前ですが、制作中、画面は
どんどん湿っていきます。
特にウェットインウェットや
ウォッシュのように、大量の水を
塗ると紙は水を吸ってブヨブヨになり、
波打ってしまいます。
波打った状態の紙に絵を描くのは
なかなかのストレスです。
そこで、便利なのが水張りです。
水張りとは、木のパネルに
画用紙を張り付ける技法ですが
これをやっておくと紙が濡れても
波打ったりしないのです。
水張りは、濡らして伸びた状態の
紙をテープで板に張り付けて乾燥させることで
ピンと張った状態の紙の画面を
用意する技法です。
水張りの方法を解説していきます。
水張りで使う道具はコチラです。
・木のパネル
・水張りテープ
・刷毛
・画用紙
まず初めに画用紙の裏を
しっかり水で濡らします。
画用紙はザラザラが表で、
ツルツルが裏です。
ツルツルした面に
しっかり水を塗りましょう。
特に四隅は乾燥しやすいので
しっかり塗ります。
画面全体がしっかり塗れたことを
確認したら、少し放置して
水をしみこませます。
この間に水張りテープを
4本カットしましょう。
木のパネルの各辺よりも
少し長めに4本カットしましょう。
水張りテープとは、裏面に糊のついた
テープで、切手のように濡れると
糊が利く仕組みになっています。
水張りテープのカットが終わったら、
テープのロールは必ず袋に
しまっておきましょう。
水張りテープは濡れると糊になるので、
ロールの状態で塗れると全て
固まってしまうのです。
テープのカットが終わったら、画用紙の
濡れ具合を確認しましょう。
おそらく、表面が乾燥している部分が
あるので、もう一度刷毛で水を塗りましょう。
そして紙を裏返し、パネルの中心に
置きましょう。
この時、紙がど真ん中に
くるように調整しましょう。
上下左右、同じくらい紙が余っている
状態にしましょう。
紙をパネルのど真ん中に置けたら、
四隅を折り込んでいきます。
そして、手が濡れていないのを確認して、
画面の中心から、外に向かって
シワを追い出すように
紙を押し伸ばしていきます。
お次は水張りテープで留めていきます。
先ほどカットした水張りテープの
艶のある面を刷毛で濡らしていきます。
パネルの長辺から止めていく
のがポイントです。
また、いきなりテープを紙とパネルの
両方に張り付けるのではなく
まず、紙にしっかり張り付けてから
折り込んで木のパネルにも
固定していきます。
2つ目以降のテープを止めるときは
特に気をつけて、皺を中央から外へ
追い出しながら
紙を押し伸ばしテープで
紙を固定していきます。
これを4辺やれば水張りは完成です。
4隅の余った紙の耳の部分は
このように折り込みましょう。
4隅の余ったテープはちぎって捨てるなり
折り込むなりしましょう。
風景画を水彩で描くコツ
風景画を水彩で描くコツについて
実際の制作をみせながら解説していきます。
今回はコチラの田園風景を描いて行きます。
今回意識するポイントはこの3つです。
〇緑、青、グレーの色面の中を描写する
〇常にやや明るめに描き進める
〇画面のやや暗めのゾーンに細かい描写を入れる
緑、青、グレーの色面の中を描写する
今回のような風景画は、まずはじめに
画面を大まかな色面で塗り分けてから
描写を進めるのがコツです。
制作の序盤、遠近感を強く意識して、
色面で画面を切り分けます。
今回は緑の面、青の面、グレーの面に
塗り分けます。
この大まかに色面を塗り分けたあとで
細かい描写を進めていきます。
この描写のステップでは、
明るいゾーンは黄色よりの鈍い色で
暗いゾーンは青寄りのやや鮮やかな色で
仕上げていきましょう。
常にやや明るめに描き進める
今回のような屋外の風景を描くときは
画面全体を明るく仕上げるのがポイントです。
屋外の風景では、カゲの中でもかなり明るいので
真っ黒は使わずに、明るいゾーンの中だけで
仕上げるのが良いのです。
明暗のコントラストをあまり使わずに描くのは
簡単ではありませんが、頑張っていきましょう。
画面のやや暗めのゾーンに細かい描写を入れる
今回のような明るめの設定で描く場合、
画面のやや暗めのゾーンに
細かい情報が集まります。
明るいゾーンは光の中に溶け込むように形を描き
やや暗めのゾーンは細かいタッチを
たくさん入れて画面全体の
粗密のバランスを意識して
描いていきましょう。
さて言葉とスライドだけでは
なかなかイメージできないと思うので
早速実践に入っていきましょう。
風景画を水彩で描く手順
風景画を水彩で描く手順を
ここからは解説していきます。
動画での解説もしていますが、
動画で使った解説スライドや解説文も
載せておくので、動画と併せて
ご活用ください。
線画を描く
今回は水張りしたホワイトワトソン紙に
描いて行きます。
まず初めに今回描く画像と
同じ比率の枠を描き、四隅を
マスキングテープで覆います。
今回は風景画なので、このように
地平線に向かって長めの直線を
引いていきます。
遠近感を強く意識して、
引いた直線がある一点に集まるように
描いて行きましょう。
モチーフの形をよく観察して
細かい形を描いて行きます。
今回のモチーフは風景なので、
厳密に形を合わせるというよりも
画面の中で自然に見えるように
形を選ぶような意識で
描いて行きましょう。
雲の形や水面の映り込みの形は
大まかな形を意識して
ざっくりととらえていきましょう。
今回のようなモチーフは、色の境界線や
光と影の境界線がどこにあるのか
探りながら形を決めていきましょう。
3色の色面で塗り分ける
さてここからは透明水彩絵の具を
塗っていきます。
初めのうちは水を多めに混ぜた絵の具で
やや明るめにベースの色を塗っていくのが
ポイントです。
今回のような風景画では、緑、青、灰色の
色の面をまず塗って
そこから明暗を描いて行くようなイメージで
描き進めると良いでしょう。
続いて、空の部分と、田んぼの水面の部分も
ベースの色を塗っていきます。
初めに塗るベースの色はできるだけムラなく、
やや明るめに塗るのがポイントです。
緑の面がやや薄すぎたので、
同じ色を重ね塗りしていきます。
3つの色面に陰影をつける
空の中で鮮やかな部分を
塗っていきます。
雲らしい形を意識して、
明るいカゲの形を塗っていく
イメージで進めましょう。
田んぼの水面の部分も暗いゾーンの
形を刻むように塗っていきます。
山の部分、田んぼの稲の部分も
ベースの色よりも一段階暗く
鮮やかな色を塗っていきます。
この時もやはりカゲの形を意識して
カゲの形を刻むように塗っていきます。
まだまだ制作の序盤なので、水が多めに
混ざった絵の具で塗っていきます。
出来る限りムラなくフラットに
塗っていきましょう。
このように絵の具を塗り重ねながら、
徐々に暗く、徐々に鮮やかにしていくのが
透明水彩を使うときのポイントです。
草の部分と水面の色味を調整するために
色を重ね塗りします。
空の部分のさらに暗く鮮やかな
ゾーンを塗っていきます。
この時もやはりカゲの形を意識して
カゲの形を刻むように塗っていきます。
色幅を作りながら描写を進める
草の部分のさらに暗く鮮やかなゾーン
を塗っていきます。
この時もやはりカゲの形を意識して
カゲの形を刻むように塗っていきます。
山の部分のさらに暗く鮮やかなゾーンを
塗っていきます。
この時もやはりカゲの形を意識して
カゲの形を刻むように塗っていきます。
遠くにある山に見えるように、
微妙な色の違いになるように
山のカゲ色を塗っていきましょう。
稲の部分のさらに暗く鮮やかな
ゾーンを塗っていきます。
このくらいの段階になったら、
稲の葉っぱの形を意識して
細かいタッチを入れていきます。
稲が密集して生えている様子を
細かい縦線で表現するわけです。
今回のモチーフのような明るい設定では
やや暗いゾーンに細かい情報が
集まっています。
細かいタッチをやや暗いゾーンに
入れることで
情報の粗密を付けて自然に
仕上げることが出来ます。
屋外の風景を描く場合、
陰色を青っぽくすると
自然に見せることが出来ます。
今塗っているカゲ色もタダの黒ではなく、
やや青っぽい暗い緑を塗っています。
田んぼの水面がやや明るいので、
薄い青をかけていきます。
田んぼの水面は、地面が透けて見える部分は
やや茶色っぽく、空の色が反射している部分は
やや青っぽくなっているので
今塗っている色が空を反射した色なのか、
地面が透けて見えた色なのかを意識して
描くと良いでしょう。
遠くに見える地面の色を塗っていきます。
地面といえば茶色というイメージがあるので、
茶色を作って塗ってしまいがちですが
今回の設定では暗いゾーンが
青系でまとまっているので
ただの暗いグレーを塗るだけで、
茶色っぽい色を感じることが出来ます。
稲の部分のさらに暗く鮮やかな
ゾーンを塗っていきます。
稲の葉っぱの形を意識して
細かいタッチを入れていきます。
稲が密集して生えている様子を
細かい縦線で表現していきましょう。
細かいタッチで暗い形を描きこみ
密度をさらに上げていきます。
稲の部分の鮮やかさが足りないので、
鮮やかな黄緑を塗り重ねていきます。
この時、必ず、下に塗った色が
乾燥した状態で塗り重ねましょう。
下に塗った絵の具が乾いていない状態で
水の多く混ざった絵の具を塗り重ねると、
絵具が解けて画面が濁ってしまいます。
今の段階では稲の明るい部分の情報が
飛んでしまっているので、
鮮やかな緑で明るい部分の
カゲ色を作っていきます。
このくらいの段階になったら
色の明るさ、鮮やかさ、情報の疎密
を意識して細かいタッチで
描写していきます。
色を重ね塗りして空の部分の色幅を
もう一段階増やしていきます。
にじみでピンボケを表現
全体の印象が見えてきました。
最適な明るさ、鮮やかさの色が
画面全体にのり
画面のやや暗い部分に細かいタッチも
はいったので、絵の大まかな印象が
完成しました。
この段階で水彩らしいにじみを使って
ピンボケを作っていきます。
水を含んだ筆で画面を濡らし、
これまでに塗った色を溶かしながら、
にじみを作ってピンボケの表情を
作っていきましょう。
どうしても画面上で色が混ざり、
やや鈍くなるので、辞め時を見極めて
すこしづつピンボケを作っていきます。
また、筆をこまめに洗って画面が
濁らないようにするのもポイントです。
このように形を刻みながら最適な色を
置いた後で、にじみを作ると
ぼけ方をある程度コントロールできます。
色味を微調整
にじみを作った後は、明るくなりすぎた部分、
暗くなりすぎた部分を調整していきます。
明るくなりすぎた部分は
新たに色を塗り重ねましょう。
暗くなりすぎた部分は、画面が濡れた状態で
ティッシュで押さえると良いでしょう。
最後に各部分の鮮やかさ、
暗さを微調整して完成です。
最終的にこのような仕上がりになりました。
今回のように屋外の風景を描くときは、
常に明るめに描く意識を持つことが重要です。
屋外の景色はカゲの中も
かなり明るい色をしているのです。
なので、真っ黒は今回の絵では
使っていません。
カゲの中もやや明るめに鮮やかに
仕上げていきましょう。
また暗い影の部分に細かい情報が
集まるのもポイントです。
明暗のコントラストをつかわず、
比較的明るい色だけで描くのは
簡単ではありませんが
それが出来ると自然な屋外の光を
感じる風景画を描けるので
是非挑戦してみてください。