こんにちは画家の黒沼です。

今回も生徒さんから集まった質問、ご要望に
応える講義をやっていこうと思います。

「選抜作家に選ばれたので、嬉しくなって
展示に参加したら、

高額な展示料金を請求された挙句、
次につながるようなチャンスは
何もなかった。」

 

こんな経験は作家活動を長く
続けている方なら

誰もが経験したことがあると
思います。

 

実際、読者さん生徒さんからも

「黒沼さんは展示に誘われたとき、
どんな条件なら参加を決めますか?」

「展示のチャンスがあった時、先方に
どんな質問をして参加を決めますか?」

こんな質問をよく頂きます。

 

確かに、展覧会のオファーが来た時、それが

画家にとってキャリアアップのチャンス
なのか

それともお金を失うだけのイベントなのか
を見極めるのはとても重要です。

 

今回は展覧会全体を俯瞰して

プロデューサー(企画者)
会場(百貨店やギャラリースタッフ)
画家(プレイヤー)

それぞれの立場の利害を解説したうえで

 

我々、画家(プレイヤー)にとって

最も「賢い」立ち回りはどんなものなのか
について考えていきたいと思います。

プロデューサーの利害

プロデューサーとは、数多くの画家とコネ
があり、展覧会を企画し、

画家と展示会場(画廊やイベント業者)
を繋ぐ存在です。

コレクター○○推薦作家展~

のような展覧会がよく見受けられますが

 

この場合コレクターが展示会場に
推薦作家を紹介し、

展覧会の企画プロデュースして
展示を開いています。

 

このような展示を企画できる
プロデューサーは幅広いコネを持っており

彼等の企画する展示には多くの
コレクターさん、美術館関係者、
画商、批評家などが見に来る
可能性も高いため

無名の作家にとっては
非常に心強い存在です。

 

基本的に現状、力のあるプロデューサー
のおかげで才能を開花させ
デビューを果たす

というのが画家の出世街道として
最もオーソドックスなものだと
思います。

 

しかし、言うまでもないことですが、
プロデューサー業も慈善事業ではないので、
彼らは彼らの利益を追求します。

我々、画家とは異なる利害を
持っているのです。

 

実際、私もこれまでに何度も

プロデューサーさんに救われたことも
ある一方で、

利害が衝突したこともあります。

 

プロデューサーの思惑を思いつく限り
ピックアップしてみました。

リスク分散

プロデューサーはどうしても展覧会を
成功させたいと思っています。

プロデューサーにとっての展覧会の成功
とは、集客実績と売り上げです。

展覧会のパートナーである会場スタッフ
を満足させるため

 

より多くの新規顧客を会場に集め、

オンライン、オフライン両方の
メディアを巻き込んで話題性を提供し

展覧会全体の売り上げもあげる

 

という状態を目指します。

 

一見、画家にとっての利害と
完全に一致するかに見えますが、

画家と利害が衝突する部分も
存在します。

〇より多くの新規顧客
〇より大きな話題性
〇より高い展覧会の売上

を手に入れるためには、

より多くの作家の参加する展覧会
を企画したいと思うのです。

 

より多くの作家の出品する展覧会の方が、
親戚縁者を含め、多くの関係者の来場が
見込めますし、

オンライン上での情報拡散も期待できます。

 

そして、たくさんの作家が集まって
展示している“絵”はハデなのです。

 

そして、より多くの作家が渾身の作品を
持ち寄って、会場を埋め尽くす方が
展示の売上も伸びやすい

という寸法です。

 

前回の講義でもお伝えしましたが、
展覧会全体の売上を伸ばす“手堅い方法”は
参加する作家を増やすことです。

↓前回の講義はこちら↓

百貨店美術画廊の裏側

 

そしてそれは作家にとって不利なことです。

 

会期中の1週間に会場を訪れる
「絵を買うお客様」は有限なので

1人で展示した時と、10人で
展示した場合を比べると

10人で展示した時は
10倍も売りづらいのです。

 

当たり前ですが、絵を買うお客様は、
その会場で1番気に入った作品を買います。

あなたの絵が2番目に気に入られていた
としても、そのお客様はおそらく
あなたの絵を諦めて、

1番好きな絵を買います。

 

(たまに気前の良いお客様は
1回の展示で複数枚絵を買いますが。)

 

プロデューサーは展覧会失敗のリスクを
避けるために、リスク分散の手段として
参加する作家を増やしたがりますが

これは作家にとって不利なのです。

 

影響力が欲しい

プロデューサーの立場にある人は、

コレクターさんであったり、
引退した元社長さんであったり、
不労所得を持っている人であったり

などなど、経済的な自由を手にした結果、

お金以外の価値を手に入れたい、
もう一花咲かせたい

 

そんなモチベーションで
活動されている方も多いです。

 

駆け出しの画家は、どうしたって
時間とお金に余裕がないので、

プロデューサーの思惑や視点を
イメージできないことが多いですが

 

彼等は別にお金が欲しくて
やっているわけではないことが多いのです。

 

彼らが欲しているのは

社会的、文化的に意味のある活動
画家たちからの感謝と尊敬
意味のあることをやり影響力をふるうこと
自分の思想や活動が継承されること

であったりします。

このモチベーションは
諸刃の剣です。

 

お金が稼げなくても良いから、
頑張っている若い才能にチャンスを与え、
育て応援したい

影響力を振るって若者を意のままに操って、
チヤホヤされたい

 

この両側面が同居しているような方
が多いのです。

 

先ほども書いたようにプロデューサー業も
慈善事業ではないので、

彼等にも思惑があるのは
仕方ないことだと思います。

 

しかし、プレイヤーである我々画家は
プロデューサーのモチベーションも
理解しておく必要があるでしょう。

 

自由に動かせる強いコマを数多く抱えておきたい

ここまで書いてきた通り、プロデューサー
の望む形で展覧会を運ぶには

呼んだらすぐに駆けつけてくれ、
会期中のできるだけ多く会場にいてくれて
腕が良い画家が、
できるだけ多く囲い込めている

ということが必要です。

はっきり言ってしまえば、自分の企画以外に
時間を使ってほしくないのです。

普段はフルタイムで働きながら
絵を描く日曜画家

他のプロデューサーや画廊とコネがあり、
展覧会の予定を新たに入れるのが難しい画家

なんかはプロデューサーにとって

都合が悪いのです。

 

この都合から時流にあわない

「専業画家」になることを
画家に勧めたり、

 

画家をさっさと結婚させたりしたがる
プロデューサーすらいます。

これは完全にプロデューサーサイドの
都合であり、

我々画家のためにはなりません。

 

コレクター○○推薦作家展~
のDMを見ると出品作家の
ほとんどが女性であることが多いですが

多くの場合、彼女らは時間に
比較的融通の利く学生か主婦なのです。

会場の利害

ここまでプロデューサーの都合を
説明してきました。

展覧会によってはプロデューサー
という存在がおらず、

画家と会場だけで、展覧会が
企画されることもあります。

 

プロデューサー同様、会場もまた
画家とは異なる利害で動いています。

 

取引相手は少ない方が良い

これは前回の講義でも書きましたが、
基本的に会場の人間は

できるだけ少ない「頼もしい」取引相手
と展示をしたいと思っています。

 

搬入搬出、展覧会企画の詳細、
イベントの準備、絵の売り上げの振り込み、

これらの合意形成

 

などなど会場の仕事は取引相手が少ない方が
楽な仕事ばかりなのです。

 

理想的には、展示を開けば、ファンが
大量に見に来て絵が売れる

売れっ子作家の個展ばかりを
1年間ローテーションでやりたいのです。

 

(そのレベルの画家を囲い込んでいる
会場はないので、不可能ですが)

 

このポイントはプロデューサーの
利害とは衝突しますが

画家の利害とは一致します。

強いプレイヤーを囲いたい

会場によっては、売れっ子作家が、
自分の会場以外で展示することを
嫌う方もいます。

売れっ子作家を取り扱い作家にして、
地方への遠征宿泊費用や額代を出すことで

流出させない工夫をしている
会場も多いです。

 

このポイントはプロデューサーの利害
と同じですが、画家の利害とは衝突します。

画家は

より良い歩合の会場
より良い展示枠を持つ会場
より多くの顧客持つ会場

を複数相手にして
展示をした方が良いワケですが

 

1年に描ける絵の枚数は限られているため、

売れっ子作家ほど囲い込みに
あいやすいのです。

 

できるだけ大きい絵を売りたい

これは一見、画家の利害と一致する
ようですが、

必ずしもそうとは言えません。

 

これまでに何回か説明した通り、
画家にとって最適な絵の準備の仕方は

「在庫ピラミッド」です。

小さい絵ほど多く、大きい絵ほど
少なく用意することで、

売り上げが安定し、
黒字化しやすいのです。

 

これをさらに強化するために、
ポストカードなども用意して、

さらに購入のハードルを下げるのも
初心者には良いでしょう。

 

しかし、一部の有名百貨店など
力のある会場では

「100号を3枚は用意してください。」
「合計で○○○万円以上の絵を用意してください。」
「ポストカードは販売しないでください。」

そんな要求をしてくるケースがあります。

 

力のある会場の立場から言えば、

ポストカードや0号がチマチマ売れて、
顧客を消費してしまうよりは

大作を多めに用意して

イチかバチかの大勝負
を全ての展覧会で行うほうが、
長期的に利益が見込めるのです。

 

会場は、

あなたの展示:80万円
次週の展示:80万円
再来週の展示:80万円

よりも

あなたの展示:0円
次週の展示:0円
再来週の展示:300万円

の方が良いのです。

展示料金をとる場合リスク0

また会場によっては、様々な名称で
作家に展示料金を負担させる場合が
あります。

もちろん不当に取り立てる料金
ではないこともありますが、

あまりに高額な場合注意が必要です。

 

例えば、

「絵の売上は100%画家のものです。
値段設定も自由です。

そのかわり1週間の展示料金が
30万円です。」

こんな会場があったとします。
(本当にあるので困ったものです笑)

 

この場合、人によっては「良い条件」
だと判断するかもしれません。

しかし、それはその会場が
抱えている顧客数次第です。

 

絵が売れる場合、お客様のほとんどが

会場が抱えている顧客
またはあなたのファンです。

すると、会場が絵を買う顧客を
ほとんど抱えていない場合、

絵はもちろん売れず

あなたが払った展示料金は
丸ごと赤字になります。

 

このような歩合が良くて、展示料金が高い
会場は多くの場合、絵を売る気がありません。

なぜなら、絵が売れなくても会場の利益は
作家からもらった展示料金で約束されている
からです。

 

絵の歩合が多少悪くても、良い顧客を数多く
抱える会場で展示するほうが
圧倒的に売り上げを伸ばしやすいのです。

 

(画家)プレイヤーの利害

さてここからが、
我々画家の利害のお話です。

 

自分の絵が売れるかどうかが重要

言うまでもないことですが、

あなたが描いた
できるだけ大きい絵が
1枚でも多く売れる

ことが望ましいです。

人数は少ない方が良い

あなたが描いたできるだけ大きい絵が
1枚でも多く売れるためには

展覧会に参加する作家の人数は
少ない方が良いです。

 

これは繰り返しお伝えしていますが

会期中に会場を訪れる絵を買う
お客様の数は有限です。

 

10人で展示したとき、1人で展示したとき
の10倍お客様が来るなんてことはありません。

しかし、駆け出しのうちは作家仲間を
増やして情報を共有したり、

今後、協力関係を作れる作家を
増やすためにも

準備としてグループ展に参加する
のは良いでしょう。

 

そうは言っても、同時に20人も30人も
作家が参加するような展示は
作家のためになりません。

(本当にあるので困ったものです笑)

 

せいぜい4,5人のグループ展で
良いと思います。

 

取引相手も少ない方が良い

ここまで読んできて、もう想像
できる方も多いでしょうが

取引相手も少ないほうが
作家にとって良いです。

言ってしまえば、会場と画家の
2者だけの直接取引

展覧会という形式にこだわらない
のであれば

お客様に直接絵を販売できる方が
作家の手元に残る収入は増えます。

固定ファンの数が重要

あなたの絵が好きだから
展示の時は毎回買う。

そんな画家にとって神様のような
お客様もいらっしゃいます。

そんなお客様を数多く抱える
画家は

経済的な意味でも、立場的な意味でも
強いのです。

 

 

お得意様をグループ展で
会場に呼んだら、

自分の絵でなく
他の人の絵のみを買って帰り

その後自分の絵を買わなくなった。

そんな悲劇を経験したこともあります。

 

逆に他の作家のお客様があなたの絵を
買うパターンもあるので、恨みっこなし
なのですが

そういった意味でも展示に参加する画家の
人数は重要なのです。

 

 

プレイヤーである画家がとるべき戦略

さて、プロデューサー、会場、画家の

それぞれの利害や思惑が
見えてきたでしょうか。

ここからは、我々画家が具体的に

どのような基準で展示を選べば良いのか
について考えていきます。

グループ展→個展

先ほどもお伝えした通り

駆け出しのうちは作家仲間を
増やして情報を共有したり、

今後、協力関係を作れる作家を
増やすためにも

準備としてグループ展に
参加するのは良いでしょう。

 

他の作家の絵や額装、絵の準備の仕方、
業界情報などから学ぶことは多いです。

また、作家活動を続け、レベルアップした
あなたに「良い展示の枠」を紹介してくれる

頼もしい仲間の存在は非常に重要です。

基本的に初心者は4-5人くらいのグループ展
から始め、キャリアを積むごとに

参加する画家の人数の少ない展覧会へ
という流れがおすすめです。

 

“強すぎて切れない”画家を目指せ

さて、ここからは極めて
“リアル”な話です。

 

ここまで解説してきた通り、

プロデューサー、会場、画家は

異なる利害を持って
展覧会の成功を目指しています。

 

そこで、この複雑な利害関係を

画家として突破していく
シンプルな方法を紹介します。

 

簡単に言えば、是非展示をお願いしたい、

展示を開けばほぼ確実に売れる画家を
目指せば良いのです。

 

プロデューサーも会場も強いプレイヤー
を手元に置いておきたいので

売れっ子作家が流出するという
のが最も避けたいことなのです。

 

例えばあなたが、かなりの
売れっ子作家になり

「人数の多いグループ展には
もう出ない。二人展か個展ならやります。」

こんな主張をしたとします。

これはプロデューサーの利害と衝突
しますが、あなたが売れっ子作家なら、

この主張は通ります。

 

「取り扱い作家にしてくれるのは
嬉しいですが、専属の作家になることは
できません。」

「ここよりも歩合の良い会場での
展示を優先します。」

こんな主張をしたとします。

 

これは会場の利害と衝突しますが、
あなたが売れっ子作家なら、

この主張は通ります。

 

実際ここまで生意気な言い方はしませんが、
このような内容を

私は画商や会場の方にそれとなく
伝えることがあります。

 

私なんかよりも強い立場にある画家さんは、
さらに大きな影響力を持っています。
(歩合を動かしたり)

ではそんな“強すぎて切れない”画家
にはどのようになれば良いのでしょうか?

 

もちろん、

高くても売れる
クオリティーの高い
所有したいと思われる
飾りやすい絵

をできるだけ多く描ける画家
強いに決まっていますが

 

ここでは作品以外の要素に
ついて解説していきます。

集客手段と収入の柱を複数持つ

結論から言えば、
「お金と時間に余裕のある状態を作り出せ。」
ということです。

残念ながら、絵は描くのに時間がかかるわりに
売りづらく、利益もさほど大きくありません。

 

時間効率も悪く、収入も不安定なのです。

 

原画の販売しかやっていない専業の画家は、
時間もお金もない状態になりやすいのです。

 

すると、

今後、展示の仕事を干されたら嫌だから、
多少条件の悪い展示でも

「付き合い」で参加しよう

とか

 

もっと悪いと、お得意様相手に、渋々、
美人局役を「付き合い」でやるしかない

なんてこともあります。

(本当にあるので困ったものです笑←3回目)

 

オンライン絵画教室がオススメなわけ

時間とお金の余裕のある状態を
生み出すための具体的な手段
としてオススメなのが

オンライン絵画教室などのコンテンツを
運営する

“複業画家”という生き方なわけですが

 

これも繰り返しお伝えしていますが、
オンラインコンテンツの販売というのは

人類史上最も効率的なビジネスモデル
と言われており、

時間効率が極めて良いのです。

 

ブログやメルマガの準備をして
一度仕組みを構築すれば、

あなたが絵を描いている間に
集客と販売を自動で行ってくれます。

 

そして、副産物として
(副産物というには大き過ぎますが)

あなたのファンを日本全国から
集めることができるのです。

 

実際、私もこれまで東京、大阪、京都、
横浜、仙台、広島、埼玉などなど

日本全国で展示を開いてきましたが、

各地でブログやメルマガを見て
きてくれた方と出会います。

 

そしてオンライン絵画教室の場合
生徒が先生の絵に憧れて買う

というパターンも多いのです。

 

 

高くても売れる
クオリティーの高い
所有したいと思われる
飾りやすい絵

をできるだけ多く描ける画家が

 

オンライン上に圧倒的な集客メディアと
収入の柱を構築しているとすれば、
それはまさに鬼に金棒なのです。

 

幸か不幸か、今の段階でアーティストには
このような事業家としての視点や能力を
持っている者が極めて少ないので

ライバル不在状態なのです。
(ほぼ全員が食い物にされている状態
ともいえますが…)

 

複雑な利害関係の美術業界において
自由な作家活動を展開するためにも

私は“複業画家”という生き方を
オススメしたいのです。