こんにちは!画家の黒沼です。

今回は多くの生徒さんから集まった
自分の作品のアピール方法、作品解説について
豊富な具体例を交えて紹介しようと思います。

 

言葉を付け加えるのは野暮なのか?

「純粋に作品だけを見てほしいので、
言葉での説明はつけないことにしています。」
「作品タイトルは no titileにします。」

こんな声をよく頂きます。

どうやら

作品を言葉で説明することは
野暮で恥ずかしい

そんな思いを持っている方が
多いようなのです。

 

しかし、結論から申し上げますと、

販売を前提とする場合は
言葉での説明をつけた方が良いです。

 

純粋に作品だけを見てもらうのは難しい

こちらは以前、ニューヨークを訪れた時に
MOMAで見た光景です。

地元の中学生、高校生の課外授業で
名画の前でディスカッションをしていたのです。

 

このように、欧米の子どもたちは日常的に

アート作品を鑑賞し、自分の考えや感想を
言葉にする習慣がついているのです。

 

そのおかげで、欧米の方々はアートを
理解するための基礎知識や語彙を
豊富に持っているのです。

 

これに対して、日本では絵画の鑑賞に
親しむ方はまだまだ少ないです。

実際に、これまで多くのお客様に
売り場で絵の解説をしてきましたが、

「抽象画ってよくわからない。」
「現代アートはよくわからない。」
「ヌードはちょっと…」

このように、絵画鑑賞に関しては
素朴な状態の方が多いのです。

 

このような状態では、純粋に
作品だけをじっくり鑑賞して

意図を読み取ったり味わったり
することは難しいのです。

 

言葉による作品鑑賞の補助
必要なのです。

わかる人にはわかるなんてウソ

日本人はアートの鑑賞に必要な語彙や
基礎知識、鑑賞の経験が不足している

そんなお話をしてきましたが、

アートに親しんだ欧米の方々ですら、

言葉による補助を全く使わずに
鑑賞しているわけではありません。

 

歴史上の多くの芸術家が残した作品と

歴史上の多くの批評家が残した、
作品に関する言説(言葉による作品鑑賞の補助)
を幼少期から学んでいるからわかるのです。

 

それに、どれほどアート作品の鑑賞経験が
豊富で、美術史や美術批評の知識がある人
でも

わからないものはわかりません。

 

私はこれでも、芸術材料学、美術史、
現代アートの批評、哲学史などなど

作品鑑賞に役立つ様々なジャンルの講義を
美大で学び

アート市場の現場で100枚以上
絵を売ってきましたが、

「この描き方はあの名画に似ている。」
「このモチーフはこういった
意味があったはず。」

といった感じで、作品に込められた意味を
“予想”しているに過ぎないのです。

 

反射光という概念を知らないと、
モチーフに回り込む弱い光を
感知できないのと同じように

 

予備知識が増えれば、

それまで気付けなかった作品の特徴
に気づけたり、

美術展に行ったときに、学芸員の書いた
解説ボードの内容が理解できたりして

より深く作品を鑑賞できるようになります。

 

言葉で作品を説明するのは、
作品の表現力が弱いから
ではないのです。

 

作品の魅力を増幅する言葉が必要

美大では毎回、制作が終わると、
講評会が開かれます。

講評会ではこのように学生が教授陣に向けて、
制作意図をプレゼンするわけですが

この「制作意図」と「制作の手段」が
ズレているとツッコミを入れられます。

 

例えば、

「○○への強い情熱を表現するために、
画面全体を青に塗りました。」

というプレゼンをしたら、

これは明らかに、「制作意図」と
「制作の手段」がずれているのです。

 

基本的に絵画は視覚芸術なので、
直感的に作品の見た目に反する解説
が加わると

嘘くさいプレゼンになってしまうのです。

 

作品解説をする場合は
直感に反するような説明はNGです。

作品の見た目の美しさや味わいを
増幅するような「言葉」を選びましょう。

 

さてここからは、様々な作例を紹介しながら、
実際にどのような「言葉による鑑賞の補助」が
良いのか考えていきます。

物語系、象徴系の場合

 

モチーフへの思い入れ

モチーフに強い思い入れのある作家の場合、

自分がそのモチーフを描き続ける理由
を語るのも良いでしょう。

 

例えば、蛙を長年描き続ける東北の
売れっ子作家さんは、

モチーフへのこだわりを
このように語っています。

「私は地元の田んぼで実際に生きた蛙を
捕まえて
生き生きとした表情を
描き続けています。

一匹一匹、よく見ると顔の表情が様々で
描いていて楽しいです。

実際に生きている蛙を描くことで、
自然や生命のエネルギーを表現しています。」

 

このように制作に関する画家ならではの
エピソードを紹介するというのも喜ばれます。

お客様は絵自体もそうですが、

画家との交流や作品が持っている
物語にも興味があるのです。

 

そういった、同じ時代を生きている
画家の健気に頑張る姿勢を見て
購入を決める方も多いものです。

縁起物

宝船やテントウムシ、富士山など、
縁起が良いとされているモチーフも
人気があります。

アートに興味のある方は、神秘的な世界に
興味のある方も多く、

スピリチュアルな絵であったり、
縁起の良い絵も人気が高いです。

 

縁起物をモチーフとして描く、ある画家さんは
占いも得意としていて、

会場では空いた時間にお客様や
作家仲間の運勢を占ったりもしていました。

 

その方はよく、テントウムシの絵を描いており、
こんな説明をしていました。

 

テントウムシは西洋では聖母マリアの象徴として
考えられていたり、

東洋でも幸運の象徴として考えられてきたそうです。

私は占いが好きということもあり、

このような、貼っておくと運気があがるような
縁起の良い絵を描いています。

 

先ほどの蛙の画家もそうでしたが、
作品の持つ物語と、画家の物語が
シンクロしているようなテーマを語る

というのも良いでしょう。

 

あなたの富士山を描けば良い

ひょっとしたら

 

意味が定まっている
モチーフを描くのなんてつまらない。
アーティストらしくない。

そう考える方もいるかもしれません。

しかし、モチーフが固定されたからといって、
作家の個性が出せなくなるかといえば、
そんなことはありません。

 

あなたらしい、構図や色彩、タッチで、
あなたの絵を描けば良いのです。

描きたくないモチーフを
わざわざ描くことはありませんが、

何を描きたいのかよくわからないときには、
縁起物を描く

という選択肢をとっても
良いかもしれません。

 

美術の専門家が象徴や物語性を嫌う理由

ひょっとしたら

美術を専門的に学んだあなたなら、
現代アートに詳しいあなたなら、

絵画を物語の説明の道具にするのはダサい。
そう感じるかもしれません。
(実際、絵画系の美大生はそう思う人が多いです。)

 

しかし、これには歴史的な背景があります。

日本に洋画の価値観が本格的に入ってきたのは
江戸の終わり~明治時代初期のことでした。

この頃、ヨーロッパでは印象派が流行っていました。

 

ヨーロッパでは長ーーい間、キリスト教の物語、
つまりは聖書の「挿絵」としての機能を
絵画が担ってきました。

絵画は文学の道具だったのです。

 

そして、教会に献上されるような絵画や
王様の肖像画の多くは
威光を示すためのモニュメントでした。

よって、立体的で存在感がある絵こそ
価値があると考えられてきたわけです。

つまりは、彫刻の代用品だったのです。

(この価値観はルネサンス末期頃から、
ゆらぎ始めます。)

 

このようにヨーロッパでは長い間、
絵画は何かの代用品や手段として
捉えられていました。

印象派をはじめとするこの時代の
多くの画家たちは、これに抗うために

「絵画ならではの価値」
を追求していました。

 

絵画はもはや聖書の挿絵ではないので、
物語性や象徴性はいらない。

絵画はモニュメント彫刻の代用品では
もはやないので、立体感はいらない。

物語性、象徴性は古臭い、野暮ったいもの
リアルに立体的に描いてどうすんの?

といった価値観が専門家の間で
広がったのです。

↑マティスやピカソが近代絵画の巨匠なのは

絵画ならではの価値:美しい平面的な形と
色彩で立体的な空間を暗示的に描く
(絵画空間)を表現したからでした。

 

これが、ヨーロッパの近現代絵画の
価値観の主流なのです。

そして、この時代のヨーロッパの価値観が
明治時代の日本に輸入された結果、

前衛的なアート≠物語性のある作品
前衛的なアート≠象徴的意味合いのある作品

となったわけです。

 

この考えは現代でも美術の専門家の間では根強く、

抽象はかっこいいアートたりえるけど
物語の一部を描いたものはアートではない。
イラストか売り絵かだろう。

といった感じなのです。

 

これは私の考えですが、明治時代に
急ごしらえで作られた日本の「アート」は

未だに一般的な日本人の生活感覚に
馴染んでおらず、その結果

「アート=よくわからないもの」といった
イメージになっているのだと思います。

 

その証拠に今のアート市場で売れている作品は

花鳥風月+美人画

という江戸時代のトレンド、

つまり、西洋のアートが輸入される以前
のもののままなのです。

 

リアリズム系の場合

リアリズム系の作家の場合、職人気質な
ストイックな方が多いせいか

「そっくりになるように描いただけなので、
何を話せばよいのかわからない…」
「見ればわかるとおもうので、
ただ見てほしい」

そんな姿勢の方もけっこういます。

 

しかし、リアリズム系の作品も

言葉の補助で魅力を増幅する
ことはできます。

見た目の美しさを増幅するフレーズ

物語性のある作品の場合と同じように、
モチーフへの思い入れや意味を語っても良いのですが、

オススメなのは「見た目の美しさを言葉で
再度説明する方法」です。

ちょうど、優れた小説が言葉だけで美しい
ビジュアルを喚起させるような方法で

描写の美しさ、モチーフの美しさに
注目してもらうのです。

 

多くの場合、初対面のお客様はあなたの絵を
ぼんやりと眺めており、

どれだけ克明に描いても作家の意図は
なかなか伝わらないものなんです。

 

こちらは私の作品なのですが、
こんな解説をしています。

コチラの作品は、様々な色の花を
生けた花瓶を描いた作品となっております。

古い時代のヨーロッパの絵画によく用いられた、
炎で照らされたような

温かみのある黄色やオレンジ色の光を
設定して描いた作品となっております。

様々な季節の花が同時に見られる
「絵の中にしかない花瓶」を
描いた一枚となっております。

写真と競争してはいけない

写真かと思いました~

こんなことを言ってくださるお客様が
よくいらっしゃいます。

おそらく誉め言葉のつもりなので、
悪い気はしないのですが、

絵画にあくまでこだわるコチラとしては、
一応ちょっとした反論↓を
することにしています。

 

実際に写真を用いて描いてはいるのですが、
写真以上に鮮やかに、存在感をもった絵に
するために、

絵の中で形や色味を変えて、
よりよく見えるように描いております。

 

写真を使ってはいけないわけではない

よく

「うまいけど、これ写真見て描いたんだ~」

みたいなガッカリなリアクションを
とる方がいらっしゃいますが

今の時代、写実をやる画家で
写真を使わないほうが珍しいです。

人によっては、写真をプロジェクターで投影し、
画面に転写して、描く作家すらいます。
(前に私もやったことがあります。)

もちろん、形をとる練習をするために
写真をつかわずに描く練習は必要ですが

実際の制作で使える技術を
わざわざ封印して描くことはありません。

 

写真を使ってないから、すごくて
写真を使って描いたら負け

なんてことはないのです。

最終的な出来栄えが全てなのです。

 

伝統技法系の場合

伝統的な技法で描く作家の作品解説も
聞いていて面白がる人は多くオススメです。

ちなみに私はこのパターンで
作品解説をすることが多いです。

有名な絵画の引用

例えば、私のこの作風は17世紀の
オランダのヤン・ダフィス・デ・ヘーム
という画家から影響を受けてできたもの
なのですが、

この画家は日本では
知る人ぞ知る画家なのです。

そこで、このような説明を
することにしています。

 

ちょうどフェルメールが生きた時代と
同じころのオランダでこのような、

スポットライトを浴びた花が
大量に生けられた花瓶を描く画家が
たくさんいたのですが

自分はその画家に憧れて
この絵を描きました。

 

有名な絵画や画家の名前の引用で
作品解説をする場合、

一般のお客様が知っている範囲を
想像する必要があります。

 

毎週、美の巨人たちや日曜美術館を
みているようなお客様なら、
大体知っていますが

一般の方は画家の名前は有名な物
しか知らないものです。

 

ちなみに、日本人が好きな画家

1位ゴッホ
2位モネ
3位ピカソ
4位レオナルドダヴィンチ
5位フェルメール

なんだそうです。

この辺りから引用できれば
間違いなく伝わるでしょう。

 

手間とこだわりのアピール

ある日本画家さんが、石と墨を手にもって、
こんな作品解説をしていました。

コチラの作品は

分厚い美濃の和紙をくしゃくしゃに揉む
「揉み紙」という技法で用意した和紙に

ミネラルショーで買ってきた宝石を砕いて、
膠で練った絵の具と

丸一日かけて、硯ですった松の茶色い
色味の墨で描いた作品なんです。

このように私の作品は紙や絵の具といった
材料から作っている

手間のかかった技法で描いた作品なんです。

 

この画家さんは、描くモチーフは
猫だけなのですが、

材料と技法に素晴らしいこだわりを
持っており、

それを一般の方にもわかりやすく
解説する力を持っています。

 

この方はすさまじい売れっ子作家で、

6号以上の絵しか描かないのに、
猫しか描かないのに、
シンプルな構図の絵しか描かないのに

バンバン絵が売れる“天才日本画家”です。

これまで紹介してきた展覧会を成功させる
テクニックをまるで使っていないのに、

これだけ売れるのは天才としか
言いようがありません。

技法の持ち味のアピール

コチラの作品は背景の部分に
金箔を貼ってメノウで
磨いて仕上げているので、

手をかざせば映り込む
鏡のような仕上げになっています。

また、図像の部分はアクリル絵の具で
描いており、艶がないので、

このように光の当たり具合によって、
様々な表情をみせる作品になっています。

 

というような説明を私は作品を手にもって、
ヒラヒラはためかせながらしています。

技法へのこだわりの強い画家さんは、
その技法特有の質感や持ち味に惚れて
こだわっていることも多いと思うので、

手に作品を持って様々な角度、距離で
見てもらうのも効果的でしょう。

引用はわかりやすく

伝統的な技法や材料の話で作品解説を
するさいに重要なのはわかりやすさです。

長い歴史をもった技法で描かれた
有難いモノであることを
アピールしたいわけですが、

お客様を置いてけぼりにしないように
注意が必要なわけです。

 

例えば、私は「黄金背景技法」という
中世ヨーロッパの祭壇画で用いられた
メノウで金箔を磨く技法を使っていますが、

この技法を説明するときに、

現代ではこの技法はワニ革のカバンの艶出し
に使われているそうで、

メノウはデリケートな表面を傷つけずに
磨くのに向いているそうですよ。

 

なんていう身の回りの例から引用することで、
作品の質感の面白さを増幅する言葉
を選んでいます。

 

伝統的な技法のアレンジは慎重に

伝統的な技法は多くの場合、

材料の種類も多く、厳格なレシピを
守る必要があるので、

なかなかコントロールが難しいでしょう。

 

そして、少しでも操作を間違えると、

絵の具が剥がれ落ちたり
なんてことも多いのです。

 

なので、自分だけの新しい技法を
見つけ出すときには、

慎重に材料の組み合わせや
作業工程を確認しましょう。

 

また、逆に技法へのこだわりが
さほどなく、劣化の心配が

制作の邪魔になってしまうような方は、
アクリル絵の具での制作をオススメします。

 

アクリル絵の具は

乾くと耐水性になる
塗膜が柔軟でひび割れない
変色しない

など様々な強靭さを
もっているので、オススメです。

↓アクリル絵の具について詳しくはコチラ↓

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