今回は多くの生徒さんから集まった

展覧会の企画方法、コンセプトの作り方
の疑問についてお答えしようと思います。

 

今回は新たにこんな質問が寄せられました。

個展を開くときに、テーマがいくつもあると、
この画家は何が描きたいのかがわからなくなる
から良くないと言われたことがあります。

確かに多すぎるとどうなのかなと思いますが、
どう思われますか?

黒沼さんや、知り合いの画家さんの場合は
どうでしょうか?

よろしくお願いいたします。

 

 

これは売れっ子作家の中でも
意見が割れるポイントです

一つの個展で多くの作風の絵を
出すのに反対の画家

統一された画風の中でもバリエーションを
持たせて作品を用意し個展を開くべき
と考える画家がいるのです。

ちなみに私は後者です。

 

作風を統一するとDMや展示会場の雰囲気が
まとまって、

「企画」としてメディアやネットなどに
見せる時に「わかりやすい」

というメリットがあります。

 

しかし会場に似たような作品が並び
見に来たお客様が退屈し絵の前を素通りする
というリスクがあるのです。

 

今回は前者の展覧会のコンセプトを一つに
絞って、そのコンセプトにあう作品ばかりを
集めて展示するものを

ストーリー型の企画

統一された画風の中でもバリエーションを
持たせて作品を用意し展示するものを

テクニカル型の企画

と名付けてそれぞれの企画の特徴を
解説していきます。

 

ストーリー型の企画

ストーリー型の企画は

「動物園」、「美人画」など
展覧会のテーマを決めて

 

そのテーマにあう作品ばかりを
展示するような企画です。

例えば「動物園」がテーマの展覧会
だったら、動物をモチーフに描く作家
ばかりが集まることになります。

 

絵を買うお客様の中には、獣医さんや
ペットを飼う富裕層の方々が
結構いるものですが、

PRがうまくいけば、彼等の多くを会場に
呼び込むことができます。

(会場の顧客リストに多くの獣医さんや
ペット好きが含まれていればの話ですが。)

 

話題をさらいやすい

ストーリー型の企画は、わかりやすいため、
テレビや新聞に取り上げてもらいやすい

というメリットもあります。

 

今の時代は、そのようなメディア掲載の実績を
記事の画像やテレビの動画という形で
ブログのプロフィールページに載せておく

というのもお客様の信頼を勝ち得るのに
役立つので良いでしょう。

 

プロデューサー好みの方法

このストーリー型の企画は言うまでもなく
プロデューサー好みの企画方法です。

ということは、画家や会場と必ずしも
利害が一致しない企画方法だともいえます…

【三つ巴】プレイヤー、プロデューサー、会場の利害関係

モチーフに思い入れのある作家には向く

 

源氏物語のワンシーンを絵にしました。

幸運の象徴であるテントウムシを描きました。

縁起の良い七福神をモチーフに描きました。

このような、モチーフ自体が強い意味を持っている
作品を描くようなタイプの画家は

ストーリー型の企画が向いている
と思います。

DMに書くコンセプト、
お客様が会場に来たほうが良い理由、
作品から伝わってくる内容

が一致しており、「わかりやすい」のです。

 

ストーリー型の企画の弱点

ストーリー型の企画は「動物園」、
「美人画」など展覧会のテーマを決めて

そのテーマにあう作品ばかりを
展示するような企画です。

これまでに何度も私はそのような
ストーリー型の企画に参加しました。

例えば「横浜」がテーマの展覧会に
参加したときは、

最低限DMに載せる数点の作品は
横浜を描いたものにする必要がありました。

その展覧会で、それらの絵が全て
売れる保証はありません。

 

案の定、横浜を描いた作品のうち
最も大きい絵が売れ残ってしまいました。

幸い、その絵は東京の会場で展示
していた時に、

横浜出身の方が買ってくださる
という形で売れたわけですが、

 

基本的にストーリー型の企画のために
用意した作品は、その展示で売れないと
売れ残ります。

 

するとどうなるかといえば、その作家の
絵の在庫にたった1枚だけ別の絵が残る

という不思議な状態になってしまい、
次回の展覧会で出品したときに、

その作品1枚が浮いてします。

 

ストーリー型の企画のかわし方

非常に魅力的な条件の、どうしても
参加したい展覧会に誘われた。

でも、普段なら描きたいと思わない
ような「お題」で絵を描かなければならない。

そんなときのかわし方をご紹介します。

 

以前私は、広島で展示をしたときに

「広島にゆかりのある作品を1枚描いて、
DMに載せるべし。」

というお題が出ました。

 

横浜の絵で懲りていた私は、
げんなりしました笑

正直言ってこの手の企画で売り上げが
伸びたりはしないのです。

 

基本的に、展示企画の面白さで会場に
来るような方、

新聞が面白い展覧会企画を紹介している
のを見て会場に来るような方

これらはライトなファンなので、

購入するようなことは
ほとんどないのです。

 

売れ残り確定の作品を増やさない
方法を考えた結果、

言葉での説明を加えなければ
「広島の絵」だとわからない絵
を描くことにしました。

それで描いたのがこちらの絵です。

ぱっと見、モミジと金箔の絵
にしか見えませんよね。

 

しかし、よく見ると、レリーフ上の線で
背景部分に鹿の足跡が
彫り込まれているのです。

 

「宮島のモミジをテーマに描きました。
刻み線という技法で、落ち葉と鹿の足跡が
彫られているので、是非探してみてください。」

この情報を文章でDMに載せればOKなわけです。

 

ストーリー型の企画は、こういう巻き込み方が
大好きなので、これでかわせるわけです。

予想通り、この作品は広島で売れ残りましたが、
京都で展示をしたときに売れました。

テクニカル型の企画

テクニカル型の企画とは
どんなものでしょうか?

私はこの企画が好きなので、基本的に
このスクールでお伝えしている内容は、
この企画の考え方によるものが多いでしょう。

 

テクニカル型の企画と私が名付けたものは、

企画のコンセプト自体が
ほとんど主張しないようなものです。

 

新春アートフェア
選抜若手作家4人展
アートの魅力展

といった感じです。企画の中身よりも、
企画自体が毎年恒例のものになっていて、

どんな作風の作家でも
参加できるようなものです。

 

技法や技術力で勝負する画家に向く

リアリズムの作家や、独自の技法で
勝負するようなタイプの画家は多くの場合

モチーフは“普通”です。

花や風景、動植物、美人画など

「絵のモチーフ」としての定番
選ぶことが多いのです。


普段、花しか描かない画家が、
いきなり

「電車」がテーマの展示に呼ばれ、
電車の絵を描けば、

多くの場合、売れ残ります。
(私の実体験です。)

 

ストーリー型の企画は技法や技術力で
勝負する画家に向かないのです。

逆にテクニカル型の企画は縛りがないので、

自信の在庫をそのまま出品すればOK
ということになります。

 

売り上げを伸ばすのに向く

ここまで在庫ピラミッドや作品の
バリエーション、額装の選び方、
などなど

売れやすい作品の用意の仕方を
色々紹介してきましたが、

 

これらの徹底に集中できるのが
テクニカル型の企画の長所です。

 

売れ残りが出づらい

 

また、先ほど例に挙げた横浜の絵や
電車の絵のような売れ残りが出づらい
のも特長です。

自分の作風にあい、売れやすいものだけを
準備するので、仮に売れ残っても

次回の展示に在庫を
スライドできるからです。

 

どんなに自信のある作品でも、確実に
売り切るには3回くらいは展示に出さないと
難しいですが、

逆に【自分にとっての売れる絵】は、
描けば3回以内に必ず売れていきます。

 

作品バリエーションの考え方

さて、おさらいにもなりますが、
基本的に展覧会の売り上げは
予想することはできません。

 

どんなに完璧に準備をしても
展示が終わるまで絵がどれほど
売れるのかはわからない

博打な側面があります。

(売り切り型のビジネス全てに
いえることかもしれませんが。)

 

しかし、我々画家にできる
効果的な準備がいくつかあります。

①【自分にとっての売れる絵】を
バリエーションを持たせて用意
②過去にその会場で絵を買った人
にDMを出す
③会場で作品解説をする
④日常的に情報発信を行い
ファンを増やす

作品制作に関する準備は①だけなのです。

今回は作品のバリエーションの作り方
についてまとめておこうと思います。

 

色とサイズのバリエーション

 

絵を買うお客様の気持ちをイメージ
できない方は

自分がiphoneを買う時を
イメージしてみてください。

 

iphoneの売り方と絵の売り方は
似ていると私は考えています。

 

ネットでモノが変える時代にわざわざ、
iphoneという

【所有しているとカッコいいもの】を
アップルストアという神殿めいた
実店舗で買う

 

という経験に価値を置くアップル信者は
多いようですが

 

あなたがiphoneを買うときに、お店に
お目当ての色やデータ容量が在庫
していなかったら、どうするでしょうか?

たぶんその日に買うのは諦めるでしょう。
(取り寄せたりはするかもしれませんが)

 

この例を出したのは

「作風はある程度絞って、色とサイズを
選び放題にするべし」

ということを伝えたかったからなのです。

作風をある程度絞る(多くても3つくらい)と
展示空間全体に統一感が出ます。

その作家の作品がブランドイメージを帯びて、
「ありがたいもの」に見えてくるのです。

 

しかし、色とサイズにはバリエーションを
持たせたほうが良いでしょう。

似たような色味の作品ばかりだと、
展示空間が退屈なものになってしまうのです。

 

すると、誰も絵の前で立ち止まらなくなり、
もちろん絵も売れなくなります。

 

また、サイズにバリエーションがあると、

お客様がご自宅の事情にあわせて、
飾れるものを選んでくれるわけです。

 

作風は気に入ったけど、飾れる場所がない
という状態で絵を買う方はいないのです。

 

作風のバリエーションの増やし方

作風のバリエーション、つまり
【あなたにとっての売れる絵】の型も
3つくらいはあって良いと思います。

しかし、これははじめから、
3つのパターンを作ろう!

と意気込んで用意するのは
オススメしません。

 

まず、自分にとって最高の
【売れる絵の型】を探求しましょう。

その型の制作の流れを人に説明できる
レベルで自覚し、量産できるようになると、

同じことの繰り返しになるので、
退屈してきます。

 

そこで元あった【売れる絵の型】の
マイナーチェンジのような絵を

実験的に小さいサイズで
描いてみるわけです。

(小さいサイズなら材料も時間も
さほどムダになりません。)

 

これをしばらく続けていると、
新しい【自分にとっての売れる絵の型】
が見えてきます。

これを繰り返し、作風を増やすことで、

描けばほぼ必ず売れるような

勝ちパターンの絵を
増やしていけるのです。

 

モチーフか技法は固定した方が良い?

【自分にとっての売れる絵】を探す過程で、
いろいろ試し、あっちこっちで浮気してしまい

自分が何をしたいのか
わからなくなってしまいました。

こんな声をよく頂きますが、

これは新しい作風を試すスパンが
短すぎるのが原因かと思います。

 

新しい作風に挑戦したら、しばらくその技法や味
が身に付いて

高いクオリティーの作品を描けるようになるまでは
他を試すべきではないと思います。

とまあ、このように言葉で制作の肌感覚について
解説しても難しいと思うので、

簡単な方法を紹介します。

 

モチーフまたは、技法を固定して、
新しい作風を模索してみましょう。

猫の絵の作風を探りたければ、
様々な技法で猫を描いてみるのです。

金箔を使った作風を身に着けたければ、

金箔を使うことだけは決めておいて、
いろんなモチーフで実験してみるのです。

 

額装のバリエーションはほどほどに

額装も作品にあったものを選ぶべきなので、

作風に統一感があれば必然的に
数種類の額で事足りるわけですが

あまりバリエーションを
増やしすぎないように注意しましょう。

 

自分は3~4種類くらいの額縁
を用意しています。

初めのうちは、自分の作品にあう額縁が
よくわからないと思うので、

小さな作品で実験してみましょう。

 

あなたの絵が好きだから買うファンが大事

さてここまで、ストーリー型の企画、
テクニカル型の企画と実際すべき準備
について解説してきました。

様々な具体的な準備方法を解説しましたが
しかし、最も重要なのは

 

「あなたの絵だから買う」という状態の
お客様を増やしていくことなのです。

企画や、売上を伸ばすための準備は
そんなお客様と出会うための手段
でしかないのですね。

最後まで読んで頂きありがとうございます。